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2026.10.14
『環境としての服』 第3章
第3章:自然へ還した際の影響予測 ― 期待と仮説
私たちは縫製工場であり、土壌の専門家ではない。そのため、ここで述べることは専門的な結論ではなく、「自然由来の素材だけで作ったこの生地を砂に還したとき、こうした環境が作れるのではないか」という期待と仮説である。
1. 洗濯では落ちないものが、なぜ砂の中では還るのか
第二章で触れた通り、この生地は大豆タンパク質の凝固(豆腐化)やキトサンの結合、熱処理などによって成分が固定されているため、服として水洗いした程度では簡単には落ちない。
しかし、化学合成樹脂や合成防腐剤を一切使っていないため、「濡れたまま放置すると雑菌(微生物)が繁殖して分解が始まる」という性質を持っている。服を長持ちさせる上では避けるべきこの「湿潤放置」の状態が、砂や土の中では常時続くことになる。だからこそ、砂の中では固定されていた成分が微生物の働きによってゆっくりと解け、自然へ還っていくのではないかと考えている。
2. 生地が「仮団粒構造」を作り、バクテリアが活動する環境になるのではないか
ただの砂は石の粒がバラバラに集まっているだけで、水も栄養も留めておくことができない。ここに天然資源で染めた生地を投入することで、次のような変化が起きるのではないかと期待している。
・生地(繊維)が骨格となり「仮団粒構造」を形成する
生地に染着している鉱石(ゼオライトやカオリンなど)の量は、砂全体から見ればごくわずかである。しかし、体積のある「生地の繊維」そのものがほつれて砂粒を物理的に絡め取ることで、砂の中に水と空気の通り道を作る「仮団粒構造(土の骨格のような状態)」を形成できるのではないだろうか。
・バクテリアが活発に活動する環境を作る
繊維が作ったフカフカの隙間に、染めに使った大豆タンパク質(呉汁)やキトサン、植物油、そして微細な鉱石や炭(松煙)、にがりなどのミネラルが存在している。これらが初期の栄養源や棲み処となることで、バクテリア(微生物)が活発に活動できる環境がゼロから作れるのではないかと考えている。
・生地の織りや染めによる進み方の違い
大麻絡み織のように目が粗くほつれやすい生地は、早い段階で砂と絡み合って物理的な骨格を作るだろうし、一方で目の詰まった綿ローンなどの布帛に松煙や柿渋をコーティングした生地は、すぐには骨格にならないものの、腐敗を抑えながら時間をかけてゆっくり土の素(腐植)になっていくと思われる。
3. 様々な問題を見ていくための実証実験
もちろん、これらは素材の特徴から考えた仮説に過ぎない。 実際に砂を土に変えていく上では、生地に付着している程度の鉱石やミネラルの「量」でどこまで足りるのかという問題や、大量の繊維が分解される過程で栄養が偏る「窒素飢餓」の問題、あるいは分解初期に発生するガスやpHの変動など、様々な問題が出てくると思われる。
しかし、そうした問題が実際にどの程度起きるのか、そして自然のサイクルの中でどう変化していくのかは、頭で考えているだけでは分からない。それを見ていくために、現在プランターでの実証実験を行っている。 第四章では、セメント用のただの川砂に生地チップを投入し、31日間観察・計測した実際の経過を報告する。