COLUMN記事

探求

2026.10.14

『環境としての服』  第1章

タイトル画像
第一章『環境としての服 ― 人を守る外骨格から、有機物が活動する土台へ』

 

本実験は、着古された服の行き先の一つとして、「廃棄」ではなく「資源」として地上に還す道を作れないかを探る実証実験である。 服が着用時だけでなく、使い古された後でも自然界で活用される資源として成り立てば、それは環境再生(リジェネラティブ)への一つのアプローチになるのではないだろうか。 日々さまざまな服を仕立てる製造現場として、服の「出口」に対しても今自分たちにできることを探し、一つずつ形にしていくための実証である。

 

1. 製造現場としての視点と、もう一つの選択肢

衣服の製造現場である縫製工場は、日々多くの生地を裁断し、縫い上げ、世の中に送り出している。 私たちが普段縫っている服には、多様な価値がある。造形やデザインを追求したファッション性の高い服には着る人の心を動かし日常を彩る力があり、化学繊維を用いた服には、天然素材だけでは実現できない軽さや強靭さ、扱いやすさといった優れた機能がある。それらは現代の暮らしや文化に欠かせないものであり、私たちは一つひとつの服づくりに誇りを持って向き合っている。

その一方で、毎日たくさんの服を生み出す製造現場だからこそ、「服が役目を終えて手放された後の行き先」についても考える機会が多い。 現代において、役目を終えた服の多くは焼却されるか埋め立てられているのが現実である。もちろんすべての服を同じ仕組みにすることはできないし、素材や用途によってリサイクルなどの適切な循環の方法は異なる。 ただ、私たち縫製工場が自ら企画・開発する試みとして、「着古された服や製造過程で出る端材が、そのまま地上の環境を整える『資源』として成立するような選択肢」も作れるのではないか。既存の服づくりを大切にしながら、もう一つの新しい可能性を現場から探ってみること。それが本プロジェクトの出発点である。

2. 着用時は「人体への環境適応としての外骨格」

この実験のために私たちが開発・製造する生地は、化学合成樹脂や合成バインダー(接着剤)を使用せず、100%天然由来の資源のみで構築している。 着用している期間、服は自然環境の刺激から人体を守る「外骨格(環境適応装置)」として機能する。

・ベース素材(植物繊維): 綿や麻などの植物繊維を用い、生地構造の基盤を形成する。

・機能性付与成分(天然資源): 無機鉱物、大豆タンパク質(呉汁)、多糖類(キトサン)、植物油脂、植物タンニンなどを物理的・化学的に結合させ、耐久性や保護性能を高める。

これらの天然成分の相互作用により、強い日差し(紫外線・赤外線)や熱、湿度、汗、摩擦といった外部ストレスから人体を守り、快適な状態を維持する実用的な道具となる

3. 手放す際は「自然環境そのものへ還す」

どれほど丁寧に作られた服であっても、いつかは寿命を迎える。 高い耐久性や機能を持つ化学繊維の服であれば、回収して再資源化するような工業的なリサイクルの仕組みが適している。それに対し、今回の実験では「寿命を終えた服を直接大地へ還し、自然のサイクルに組み込む」という別のルートを目指している。

自然界から借りた物質(植物繊維・無機鉱物・タンパク質・多糖類・ミネラル・炭素)だけで構築された服であれば、土や砂に還した際、すべての構成成分がそのまま土壌微生物の代謝サイクルへと引き継がれる。 さらに本実証実験が検証しているのは、単なる「生分解(消えてなくなること)」にとどまらない。有機物を持たない無機質な「砂」の中に生地を還すことで、そこが微生物や植物などの有機物が活動できる環境(土壌)へと変わっていくかどうかを確かめることである。

着ている間は自然の力を借りて人を守る環境(外骨格)となり、手放す際は自然へ資源を返して次の命が活動する環境(土台)となる。この循環が事実として成り立つかを確かめるため、私たちは実証実験を続けている。