COLUMN記事
JOURNAL
2026.03.10
縫製の物理と構造 ── アパレル生産における仕様と力学 【3】
第六章:裾の始末 ── シルエットと耐久性のトレードオフ
服の最下部である「裾」の処理は、服全体の落ち感と最終的な見栄えを決定づける。
■ 1. ロック二つ折り始末
生地端をロックミシンで処理した後、一度だけ折り返して留める仕様。
【特性とメリット】
生地の重なりが2枚分で済むため、生地本来の柔らかさや落ち感を損なうことなく美しいシルエットを保つ。
【構造上の注意点】
裏側にロックの編み目が露出し、歩行時の摩擦や洗濯の物理的負荷によりほつれ糸が飛び出してくるリスクがある。
■ 2. 三つ折り始末(および細三巻)
生地端を2回折り込み、裁ち端を完全に内部に隠してステッチで押さえる仕様。
【特性とメリット】
生地端が保護されるため、ほつれのリスクが極めて低く物理的な強度が飛躍的に向上する。
【構造上の注意点と物理的制約】
厚みと折り幅の限界: 生地の厚みと設定幅のバランスが厳密に問われる。「厚み5mmの素材に5mm幅の三つ折り」等の物理的に不可能な設計を行うと、縫い込みが浅くなり「パンク」の原因となる。
カーブにおける内外周差とバイアスの伸び: フレアスカート等のカーブがきつい裾では、カーブ部分が生地が伸びやすい「バイアス」を通るため、裾全体が波打つように伸びてしまう危険性がある。
アイロンによる形状修復と技術的介入: 波打った裾に対しアイロンで強制的に平らに戻す作業が行われるが、一度伸びたバイアスを完全に戻すことは困難であり「ねじれ」となって現れやすい。このねじれをコントロールし平らに整備することも縫製工の重要な技術である。
■ 3. パイピング始末(四つ折りバインダー)
身頃の生地端を、別の生地(四つ折りテープ等)で包み込んで縫い上げる仕様。
【特性とメリット】
裏側の美観が向上し、摩擦がほぼなくなり非常に滑らかな肌当たりを実現できる。
【構造上の注意点と物理的制約(理屈の理解)】
バイアス特有の「幅引き」の物理: カーブに沿わせるためテープはバイアスで裁断されるが、バイアス生地は引っ張られると縦に伸び、それに伴い横幅が細くなる。このバイアス特有の「幅引き(引っ張られると横幅が細くなる現象)」を計算し、仕上がり幅に対してあらかじめテープ幅を広く設定する理屈の理解が不可欠である。計算を誤ると「パンク」が発生する。
アタッチメントの張力と身頃の反発: バインダーを通す際の強い張力により、テープに引っ張られた身頃側の生地が反発し、身頃にのみ「ピリ」や「パッカリング」が発生する。
■ 4. ルイス始末(すくい縫い)
裾の折り返し部分において、表地の裏側だけを専用ミシンの湾曲した針でわずかにすくいながら縫い留める仕様。
【特性とメリット】
表側に縫い目がほぼ出ず、生地本来の表情を邪魔しない。
【構造上の注意点と物理的制約(理屈の理解)】
「すくい量」と素材の相性: 「生地の厚みの内部(半分程度)だけを針が通る」というシビアな調整が必要。生地の厚みや硬さによっては強度の維持が困難な場合があり、針のすくい量を深く設定せざるを得ず、表から糸が見えたり「えくぼ(アタリ)」が出たりする場合がある。
繊細な機械構造と張力の調整: 引きつれを出さず強度を持たせるためには、糸調子に絶妙な「遊び」を持たせる必要があり、素材の物理的特性と高度な技術が要求される。