COLUMN記事
視座
2026.04.05
速さと綺麗さは、別の技術である
エトフェールの工場は、他と比べれば静かだとよく言われている。 それは職人が一針ずつ祈るように慎重に縫っているからではない。
単に、**「スピードを重視していない」**という、それだけの理由だ。
【1. 速さと綺麗さは、別の技術】
早く縫う技術と、綺麗に縫う技術は、全く別の種類の能力だ。 多くの工場が「効率」という名の速さを競う中で、私たちはその土俵に乗っていない。 早く縫えば、微細なズレや生地の悲鳴は見えなくなる。勢いで誤魔化せてしまう部分が出てくる。それを避けるために、私たちは「速さ」というカードを捨てている。
【2. 淡々と、ただ正しく】
ただ、設計図の数値を追い、物理的な正解に対して淡々と針を落とす。 機械を唸らせてスピードでねじ伏せる必要がないから、結果として現場に余計な喧騒が生まれない。その「静かな状態」は、余裕ではなく、単なる選択の結果だ。
【3. それでも、縫製は難しい】
スピードを追わずに、ただ正しさを求めて向き合っても、なお縫製は難しい。 間違えるし、汚くなる。 「基本」を語り、時間をかけて向き合ったところで、完璧に辿り着く保証などどこにもない。それでも、その姿勢を崩すわけにはいかないのだ。
【結論】
エトフェールは、スピードを競う場所ではない。 「できない」という自覚を持ち、それでも「綺麗さ」という一点を求めて、泥臭く、静かに、時間をかけて一針を刺し続ける場所である。 速さではなく、正しさ。そのための静寂が、私たちの工場の音である。